生きる意味、成り立たす「なじみ」の関係

スタッフの声

認知症のケアにおいて、「なじみ」の関係が大切であるといわれて久しい。なじみとは「慣れ親しんでいること」などの意味が辞書には書かれている。認知症状態にある高齢者が、これまで、の時間の中で、培ってきた自覚、無自覚に関係を持ってきた物や人や空間とその関係。
つまり「私と環境の関係を考えること」といえるだろう。「リロケーションダメージ(移転、引っ越し、家具の再配置による混乱) 」という言葉がある。認知機能低下により、環境変化に対する適応は難しく、それにより混乱やパニックを引き起こしてしまう。施設への住み替え、入院や一時的な居住環境の移動の際、援助者は本人にとってのなじみの環境作りを工夫していく。

例えば今まで、使っていた家具や布団、衣類などを持ち込んでもらい、自宅のような環境を演出してリロケーションダメージを抑えようとする。認知症に対応するユニットケアのキーワードの一つは、この「なじみ」ということになる。
しかし、そのなじみの関係を、介護者視点で考えてしまってはいないだろうか。その結果、その場につなぎとめ、落ち着いてもらうための手段になっていないだろうか。なじみのケアなどと暖昧に語られ、美化されてはいないだろうか。
これまでのケアの実践を振り返ると、「なじみ」を認知症の人自身の体験で考える必要があるように感じる。なじむとは、私(認知症の人)がさまざまな場所、物、人、空間などとの相互の関係において、その距離、方向、形、姿、香り、音、感触などを手足や身体全体で覚えていることではないだろうか。
つまり、認知症ケアの実践における「なじみ」は、「私(認知症の人)がこれまでの自律的体験によって身につけた場所や空間、人との距離などとの関係性であり、そのことにより自己の存在と意味が成立できること」と定義できる。

先日、体調を崩して入院していたカネさんが戻ってきた。食事も取れず、ターミナルの状況下で、の退院だ、った。そして、退院の数日後に100歳の誕生日を迎えた。スタッフは記念に着物を着て写真を撮ろうと提案した。着物を着ると擦とした表情になるからだ。
カネさんにとって着物がなじみの物かどうか、また、どういう意味を持つのかは分からない。しかし、着物と着物の袖を通した手が、足が、相互に作用し、カネさんの身体の体験が敏感にそうさせているような気がする。そして、カネさんの生きる意味を回復させるのだ。
その「体験」や「体験している身体」のメッセージに真撃に耳を傾けることが、私たちが目指す「苦しみを和らげ、軽くし、なくす」援助なのだ。

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