「さりげなく,そして,しっかり支える。」

スタッフの声

トヨさん(仮称)の部屋から声がする。部屋を訪ねると、こちらを見ながら、少し結いた様子で「はらっ。こんにちは。」と挨拶をしてくれた。目が合った瞬間に、何か、いつもと違った、トヨさんの表情(苦しい気持ちの表出)を感じとった。

よかよかんでは、「援助の実践」とし、う理念、を掲げ、実践を行っている。援助とは、苦しみを和らげ、軽くし、なくすることである。そこでは「援助的コミュニケーション」という技法を利用者さんとのかかわりの中で日々実践させて頂いている。医療・介護の現場では、 2種類のコミュニケーションがある。一般的なコミュニケーションは、情報の収集と伝達が目的となる(主体は、介護者) 。「援助的コミュニケーション」では、情報収集が目的ではなく、コミュニケーションをとること、そのことで相手の苦しみが和らぎ、満足・安心・信頼を感じること(主体は、相手)が目的となる。

年に数回、大学の先生を講師に招き、「援助の実践」について研修会を開催している。その懇親会で、ある援助士が、講師の先生に、利用者さんとのかかわりについて「繰り返し同じ話をする方の話を聴くときに、相手に意識を向けてコミュニケーションをとることが難しい。」と言った。すると、講師の先生は、 「それが、普通なんです。私たちの日常の中で、相手に意識を向けることなんて0(ゼロ)に等しいですよ。プロのスポーツ選手のトレーニングと同じように、援助も日々のトレーニングをしないと、相手の苦しみに意識を向けて話を聴くということはできないことなんです。」と教えてくれた。トヨさんは、ベッドに休んだまま、今にも泣きだしそうな表情で、私の手を握り、「私は、父も母も死んで一人じゃっと。」と語りだした。私はベッド横に座り、話を聴く姿勢をとった。私は、 rトヨさんは、父も母も死んで一人なんですね。」と反復する。すると、目を閉じ領き「じゃっと。父も母も私には・・・。」と、トヨさんの意識は過去に向けられてして。その語りのひとつひとつは、トヨさんが自らに語りかけるようであり、涙を手の甲で、拭っていた。トヨさんの苦しみは、過去の記憶を思い出し、父と母という大事な存在を失ったことによる<深く・はげしい苦しみ>であった。しかし、父と母との想い出を語ることができた数分のなかで、スッキリとした表情となり、いつもの穏やかなトヨさんの表情へと変わっていった。話の最後に、トヨさんが、「あなたに聴いてもらえて、ここへんが(胸に手をあて)すーっとした。ありがとう。」と言ってくれた。

<他者のことは、決して分からない。だから話を聴く。>つまり、相手の苦しみを和らげ、軽くし、なくするということは、聴き手(援助者)が、話を聴いてあげよう、相手のことを知ろう、理解しようとする「行為」ではなく、語り手(利用者さん)の<聴いてもらった。分かつてもらった>という「実感」が何より大切だということ、そのことを信じることだと、トヨさんは、私達に教えてくれている。、

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